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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)6796号 判決

原告

野田惠子

ほか二名

被告

株式会社第一山陽

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告野田惠子に対し金二四八二万六九三四円、同野田亜紀、同野田興一に対し各金一二四一万三四六七円及びいずれも右金員に対する平成四年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら各勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自、原告野田惠子に対し四二四七万二五九一円、原告野田亜紀に対し金二一二三万六二九六円、原告野田興一に対し金二一二三万六二九六円及びこれらに対する平成四年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、普通貨物自動車と自動二輪車が衝突し、自動二輪車運転者が死亡した交通事故で、その遺族が、普通貨物自動車の運転者に対し民法七〇九条に基づき、運転者の使用者に対し民法七一五条、自賠法三条に基づき、いずれも損害賠償請求した事案(一部請求)である。

一  争いのない事実など(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含む。括弧内に適示したのは認定に要した証拠である。)

1  事故の発生

(1) 発生日時 平成四年六月二五日午前六時二五分ころ

(2) 発生場所 大阪府枚方市中宮大池一丁目一一七六番地先路上(以下「本件交差点」という。)

(3) 加害車両 被告株式会社第一山陽(以下「被告会社」という。)所有、被告松井宣人(以下「被告松井」という。)運転の普通貨物自動車(広島一一か八三六一、以下「被告車」という。)

(4) 被害車両 訴外野田五男(以下「亡五男」という。)運転の自動二輪車(一大阪て八一五五、以下「原告車」という。

(5) 事故態様 被告車が本件交差点で右折する際、折から対向直進中の亡五男運転の原告車と衝突したもの

2  亡五男の死亡(甲二)

亡五男は、本件事故により、脳挫傷、肺挫傷、硬膜下血腫、肝挫傷、仙腸関節脱臼等の傷害を負い、本件事故の翌日である平成四年六月二六日午前九時二九分、大阪府三島救命救急センターにおいて死亡した。

3  責任原因(弁論の全趣旨)

(1) 被告松井

本件事故は、被告松井の過失により発生したものであるから、同人は民法七〇九条により本件事故による損害について賠償責任を負う。

(2) 被告会社

被告会社は、被告松井の使用者であり、本件事故は、その業務に従事中の被告松井の過失により発生したものであり、被告車は被告会社の保有であるから、被告会社は民法七一五条、自賠法三条により本件事故による損害について賠償責任を負う。

4  原告らの相続

原告野田惠子(以下「原告惠子」という。)は亡五男の妻であり、原告野田亜紀(以下「原告亜紀」という。)は亡五男の長女であり、原告野田興一は亡五男の長男であり、法定相続人であつて、亡五男の本件事故による損害賠償請求権を法定相続分のとおり原告惠子が二分の一、その余の原告らが各四分の一の割合で相続した。

5  損害の填補

原告らは、被告らから治療費として一八六万七一八五円(請求外)、自賠責保険から三〇〇〇万円の支払を受けた。

二  争点

1  過失相殺

(1) 被告ら

本件事故は、信号機の設置された交差点において、被告車が右折するため、一旦交差点中央付近で停止して、対向車をやり過ごしたのち、前方の安全を確認したうえで右折を開始したのに対し、亡五男が前方注視を欠き、速度違反をして運転したため発生したもので亡五男の過失が重大であるから、大幅な過失相殺がされるべきである。

(2) 原告ら

本件事故は、被告松井が右折中、道を間違えたことに気付き、急に停止したため折から直進中の原告車と衝突したものであり、被告松井の一方的過失により発生したものであるから、過失相殺をすべきでない。

2  損害額

第三争点に対する判断

一  過失相殺

1  証拠(乙一の1ないし5、調査嘱託の結果、被告松井本人)によれば、ひとまず、以下の事実が認められる。

(1) 本件交差点は、別紙図面(1)のとおり、ほぼ南北にのびる片側各二車線の道路(なお、交差点手前で南側・北側も右折専用車線が設けられ三車線となつている。以下「南北道路」という。)と東西にのびる道路(以下「東西道路」という。)とが交差する信号機の設置されている十字型交差点上である。東西道路の東詰付近の道路状況は別紙図面(2)のとおりである。

南北道路は、制限速度が時速五〇キロメートルであり、本件事故当時、路面は乾燥していた。

(2) 被告松井は、被告車を運転して、南北道路北行車線を北進し、右折合図を出して、本件交差点に進入し、右折のため本件交差点中央付近で一時停止した後、発進したところ、概ね〈×〉地点で被告車左側面と南北道路を南進してきた原告車が衝突した。

(3) 亡五男は、原告車を運転して、南北道路を南進し、本件交差点に至り、対向右折してきた被告車と衝突した。

本件交差点には、原告車のスリツプ痕は認められなかつた。

(4) 被告車は、長さ八・四六メートル、幅二・三八メートルの普通貨物自動車で、本件事故後、同車は、左側サイドガード後端から左後輪付近のサイドガード、泥除け、あおり部が曲損あるいは凹損していた。また、後輪タイヤのシヨルダー部に払拭痕、左あおり部に擦過痕、横縞の黒色擦過痕、あおり部のヒンジステーに樹脂の破片が食い込み、地上高一・〇九ないし一・一八メートル付近に皮膚様の痕跡が残存していた。

原告車は排気量二五〇CCの自動二輪車であり、座席の高さは約〇・七メートルであつた。本件事故後、同車は、前輪フオークが左右ともに前方からの衝撃により後方に曲損し、前輪の後部がガソリンタンク下部のラジエターに接触して左に若干曲損し、ハンドル上部に取り付けられた風防、計器類がいずれも脱落し、ガソリンタンク上部が凹損し、左右取り付けのカウルが割れて脱落し、前照灯が破損して右下部にはずれ、方向指示器が左前部は脱落し、右前部は曲損していた。また、前輪泥除けに前から左後方に向かつて赤色擦過痕跡、前輪左フオークの中心軸の上部に白色擦過痕跡、その上方に赤色擦過痕跡、右フオークの中心軸の上部に赤色擦過痕跡、右下方に脱落した前照灯のリム上部に赤色擦過痕跡が残存した。

亡五男着用のヘルメツト(フルフエイス)は、主に左側頭部分に擦過痕跡、左下額部分が剥離し、その上方フード左部にも擦過痕跡が残存した。以上の事実が認められる。

2  右事実によれば、原告車はブレーキの効いていない状態でそのまま前部から右折中の被告車左後輪付近に衝突し、亡五男の頭部が荷台あおり部に衝突したことが認められる。

ところで、被告らは、亡五男には、速度違反、脇見の過失があつたとして大幅な過失相殺がなされるべきであると主張し、被告松井の実況見分調書の「本件交差点中央で一旦停止し、発進する際、約九二メートル前方の南行第一車線を南進中の原告車を発見した。その後発進し、右ハンドルを切つて一五・四メートル進行したところで、八三・三メートル進行してきた原告車と衝突した」旨の指示説明、本人尋問における「右折開始前の原告車との距離は一〇〇メートル程度であり、右折中の速度は一〇ないし一五キロメートルであつた」旨の供述を前提としたうえで、前記認定の双方車両の損傷の程度、原告車のスリツプ痕がないことから、右主張が裏付けられるとするが、ブレーキの効かない状態で衝突すれば、時速五〇キロメートル程度で走行していても右の損傷を生ずる余地があることは否定できず、また、スリツプ痕のないことは、被告車が直近右折をすれば、亡五男が前方注視し、直ちにブレーキをかけても原告車のブレーキが効かないまま衝突する余地もあり、直ちに亡五男の脇見の裏付けにはならず、原告車に速度違反、脇見の過失があるとして大幅な過失相殺がなされるべきであるとの被告らの主張は採用できない。

他方、原告らは、被告車は右折途中で停止、あるいは減速したとして過失相殺がなされるべきでないと主張するが、原告車の大きさ、東西道路の道路状況には原告車の進入が困難であると認めるような事実は認められず(調査嘱託の結果)、また、被告車が進入路を結果的に間違えたことは認められるが(被告松井本人)、これをもつて、対向車線を横断中に停止したとは認められず、原告らの主張は採用できない。

3  右によると、前記認定事実からは、本件事故が、信号機の設置された交差点における右折車と直進車の衝突事故であり、互いに相手車両の動静注視を怠つたため発生した事故というべきであるに止まり、原告ら、被告らの主張も採用できないところ、本件道路状況、双方車両の差異等諸般の事情を考慮すると、二割の過失相殺が相当である。

二  損害額(各費目の括弧内は原告ら主張額)

1  逸失利益(八六〇三万五七三三円)

六九八三万四一三二円

証拠(甲六、八、一四、一八ないし二〇、原告惠子)及び弁論の全趣旨によれば、亡五男は本件事故当時、四七才(昭和二〇年一月二日生)の高卒の健康な男子で、妻原告惠子、長女原告亜紀、長男原告興一の家族の世帯主であり、昭和四六年三月三一日に入社した株式会社ニホンゲンマで係長として勤務し、平成三年には給与所得として八四一万七三五七円を得ていたこと、同社で定年まで稼働する意思を有していたが、本件事故により死亡したため平成四年六月二六日退職となつたこと、同社の就業規則では平成八年度から定年は満六〇才となること、退職金規定も整備され、亡五男が今後昇格がないまま定年退職したとしても少なくとも退職時一二三〇万二一二二円(年五分の割合による中間利息控除後の現価は七四五万五〇八五円)の退職金を取得し得たが、右死亡退職により平成四年一〇月一日に六四九万三九〇二円の支給を受けたに止まつたこと、本件事故により死亡しなければ、亡五男が六〇才で定年退職後も六七才までは、少なくとも、平成四年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・男子労働者・高校卒六〇才ないし六四才の平均年収額四一四万三一〇〇円程度の年収を得られたであろうことが認められる。右事実を基礎に、給与収入の三割を生活費として控除し、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除し、これに退職金差額を加算して、逸失利益の現価を算定すると、六九八三万四一三二円となる。

(1) 60才までの給与分

8,417,357×(1-0.3)×9.821=57,866,804・・〈1〉

(小数点以下切捨て、以下同様)

(2) 67才までの給与分

4,143,100×(1-0.3)×(13.616-9.821)=11,006,145・・〈2〉

(3) 退職金差額

12,302,122×0.606-6,493,902=961,183・・〈3〉

(4) 合計

〈1〉+〈2〉+〈3〉=69,834,132

2  慰謝料(二四〇〇万円) 二四〇〇万円

亡五男の年令、家庭状況などの諸般の事情に照らすと、その慰謝料としては二四〇〇万円が相当である。

3  葬儀費用等(三二一万七六七〇円) 一二〇万円

証拠(甲一〇、一一、原告惠子本人)によれば、亡五男の葬儀関係費用として三二一万七六七〇円を要したことが認められるが、本件事故と相当因果関係が認められる葬儀関係費用は一二〇万円が相当である。

4  小計

以上によれば、亡五男の本件事故による損害額(弁護士費用を除く)は請求外の治療費一八六万七一八五円を加算すると九六九〇万一三一七円となり、前記過失相殺により二割の控除をすると、七七五二万一〇五三円となり、さらに既払金三一八六万七一八五円を控除すると、四五六五万三八六八円となり、これを原告らが法定相続分に応じて相続したので、原告らの損害額は原告惠子が二二八二万六九三四円、同亜紀、同興一が各一一四一万三四六七円となる。

5  弁護士費用(七五〇万円) 四〇〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は四〇〇万円と認めるのが相当であり、これを原告らが法定相続分に応じて、原告惠子が二〇〇万円、同亜紀、同興一が各一〇〇万円を負担したことが認められる。

三  まとめ

以上によると、原告惠子が二四八二万六九三四円及びこれに対する不法行為の日の翌日である平成四年六月二六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で、同亜紀、同興一が各一二四一万三四六七円及びこれに対する不法行為の日の翌日である平成四年六月二六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度でいずれも理由があり、右限度で認容することとする。

(裁判官 髙野裕)

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